2015年11月09日

落としている

「だったら、早く荷物持って部屋から出て行けよ。1秒でも、お前の顔なんて見ていたくない」
 そう言ってから、健人はようやく歩から視線を逸らした。歩の前から退いて、テーブルの上に置きっ放しになっている教科書とノートを雑に掴んで歩に突き付ける。どうして、こんなこ鑽石能量水 問題とになってしまったのか、健人も歩も分かっていなかった。互いに傷つけることしか知らず、嫌っていると言う事実から傷つけることしか思いつかなかったのだ。歩は健人に突き付けられた教材を受け取ると、騒いでいたことなど悟られない様、静かに扉を開けて同じように扉を閉めた。
 隣の部屋から扉を閉める音が響いてから、健人は息を吐き出す。忘れていた呼吸をゆっくりと意識して、思い出すように息を吸って吐くを繰り返す。たどたどしい足取りでベッドまで行くと、布団に身を預けた。
 緊迫した状態は精神を擦り減らし、これから勉強しなければいけないと言うのにそんな気も起きなかった。掴まれた左腕から、ズキズキと痛みが発生する。
「……裏切られたなんて、思ってねぇよ」
 呟くように言って、目を閉じた。始めから、歩のことなんて信じていなかった。だから、裏切られたなんて全く思わず、どこか納得した自分が冷めているようで気持ち悪いと思った。昔はもう少し、人間らしい感情を持ち合わせていた。それなのに、今ではその片鱗もみせていない。母親の再婚が、かなりトラウマになっていることに無理やり気付かされた。感情を失ってしまうほど、健人はショックだったのだ。
 歩に裏切られたことよりも、そっちのほうが健人にとってショックだった。
 もしかしたら、一生、誰も信じることなんてできないのかもしれない。そう思うと、奈落の底に落ちて行く自分の姿が頭に浮かんで、健人は頭を振った。
 掴まれた左腕はまだ、痛みを健人に訴えている。それと同時に、映画館で掴まれた左手も共鳴するように健人に何かを訴えていた。
 歩と言い合ってから、1ヵ月半が経った。二人の関係はあれか韓國 泡菜ら変わらず、家の中では仲の良いふりをして、それ以外では一切、口を利いていなかった。健人は朝早くに家を出なければいけなくなったと母親に言うと、母は何も疑わずに「そうなの」とだけ言って、歩と一緒に行かないことに口は挟まなかった。二人の間に何かあったなど、疑っても居ないのだろう。それは嬉しくもあるが、腹立つものもあった。
 7月の初めにある期末テストへ向けて、健人は勉強をしていた。期末テストは特待生の資格がかかっている。順位を落とすわけにもいかず、2週間以上前から勉強に励んでいた。
 歩と関わることが無くなった今、余計なことを考えずに済むのが、健人にとって一番良いことだった。
「……健人君って、いつも勉強ばっかりしてるよなぁ。まっじめー」
 窓際の健人の席とは反対側の、廊下側の席にいる歩の所へ、ジンがやってきた。ジンも特待生だが、休み時間中に勉強をすることなど無い。クラスの中にいる特待生は3人。健人と、ジンと、太陽。健人と太陽は休み時間も勉強をしているが、ジンだけは歩の所へ行って下らない会話をしていた。
「知るかよ……」
 携帯を弄りながら、歩は健人へ視線を向ける。眼鏡をかけて、教科書か何かに目を健人を少しだけ見つめて、すぐに目下の画面へと視線を移した。数秒見ているだけでも、込み上がってくる嫌悪に耐え切れなくなる。本音を言い合ってから、健人に対する感情は日に日に増す一方だった。そんな歩とは裏腹に、すっきりした顔をしている健人を見ていると、余計に怒りが込み上がってくるのを感じた。
「ここ最近、一緒に来てないよな? ケンカでもしたの?」
 前から疑問に思っていたことを、ジンは躊躇いも無く歩に尋ねた。気まずいことでも安易に聞くことが出来る関係であるから、このときばかりはそんな関係が鬱陶しいと思えた。歩は携帯に目を向けたまま、ジンに素気なく言う。
「ケンカなんかじゃねーよ」
「えー、じゃぁ、何だよ。お前、鬱陶しいぐらい健人君に構っ鑽石能量水 問題てたじゃん。それが最近無いからって、周りも可笑しいって思ってるみたいだぞー」
「……周りって誰だよ」



Posted by 似水流年 at 11:41│Comments(0)
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