2016年03月07日

忘れずにチェッ

 オウギワシというのは、カンムリクマタカ、サルクイワシと並ぶ世界の三大猛禽の一つで(三大テノールと同じで、誰が決めたのかは知りません)、英名を harpy eagle といいます。harpy というのは、ギリシャ神話のハルピュイアのことで、女の顔に爪の生えた翼を持ち、子供をさらう恐ろしい怪物です。オウギワシはその名に恥じず、強力な爪でサルやナマケモノなどを捕殺します。
 そんな物凄い鳥が頭上から急降下してきた日には、たぶん、もう逃れるすべはないのでしょう。突然、風を切る獰猛な羽音が鼓膜を打つとき、オマキザルたちの脳裏にも、短い生涯の記憶が走馬灯のように点滅するのでしょうか……?
 そうそう。オマキザルの仲間で、もう一種だけ、紹介するのを忘れていました。先ほどのウアカリに比較的近縁の種である、モンクサキです。
 灰色のばさばさの毛皮に、ひどく憂鬱そうな顔をした、およそ見栄えのしないサルなのですが、これが見事なくらい森氏に生き写しなのです。もし動物図鑑を見る機会があったら、クしてみてください。
 次に、蜷川教授の仕事について。
 とにかく、一刻もじっとしていない人であり、まだ、落ち着いて話を聞く機会にも恵まれていません。ですから、あまり迂闊なことは言えないのですが、僕の見たところ、教授の頭の中には独特の文明史観があるようです。カミナワ族のように、先史文明を受け継いでいる可能性のある部族を探してフィールドワークを行っているのも、それを実証するためであるようです。
 教授の文明史観がどんなものか、正しく要約できる自信はとてもないのですが、簡単に言えば、『生存』と『幸福』という必ずしも一致しない二つの欲求の相克によって、人類の文明が発達してきたというものらしいです。
 脳は常に、過剰なまでに『快感』、『満足』、『幸福』を求めたがるのですが、あまりにもそちらに傾きすぎると、『生存』のためには不適格な行動をとることになりかねず、淘汰されてしまいます。
 人類は、この二つの目標の間でバランスを取ろうとして、どちらにも、ほぼ同じくらいの努力を傾けてきました。一方では、『生存』を希求するために、外敵や災害、飢え、疫病などに備え、もう一方では、心の平穏を得るために、『文化』を作り出したのです。
 多くの人が薄々感づいていたように、最も手堅い戦略は、まず、『生存』のために必要充分な資源を確保しておき、『幸福』の方は、なるべくお金やエネルギーをかけずに処理することでしょう。ですが脳は、それではなかなか満足してくれません。
 世界の多くの文明は(偏執的に物質を崇拝する西欧文明以外ということですが)、このジレンマを解決するため、ヨガや瞑想などのチープな方法によって、内的世界の探求に向かいました。さらに、その一助として薬品を用いる、いわゆるドラッグカルチャーというものも数多く存在していました。
 蜷川教授は、古代アマゾンには、蛇を信仰する特異な密林文明が存在していたと考えています。そして、そこでは、何か特別な種類の麻薬を使うことによって、『幸福』への欲求を完全にコントロールしていたのではないかと。これは、教授が長年かかって、大昔に存在していたという『理想郷』に関するインディオたちの口承を集め、分析?推理した結果です。(残念なことに、物質循環の激しいアマゾンでは、木製の遺物の類は、あっという間に朽ちて土に還ってしまうので、物的証拠はほとんど残っていません)
 カミナワ族に限らず、アマゾンのインディオたちは、世界で最も古くから麻薬を使ってきた民族として知られています(そのせいか、現在では麻薬カルテルと契約して、コカインを密栽培している部族などもあります)。しかし、太古にここ、ブラジル領アマゾンの最深奥部に存在していたドラッグカルチャーは、インディオとはまったく別の人種による、遥かに洗練されたものだったそうです。
 古代のアマゾンに密林文明が存在したという傍証は、いくつか存在します。  


Posted by 似水流年 at 10:59Comments(0)