2015年09月22日
黒い影のとおりす
金田一耕助がさけんだときだった。ひと声高く、キャーッというような悲鳴がとどろいたかと思うと、あとは、死のようなしずけさ。
「立花君、いこう、いってみよう」
「よし、滋君もきたまえ」
三人はむちゅうになって地下道をはしていったが、それから、ものの五十メートルもいかぬうちに、金田一耕助がとつぜん、
「だれだ?」
と、さけんで立ちどまると、かたわらの地下道の壁に、さっと懐中電燈の光をさしむけた。
と、そのとたん、地下道の壁にピッタリと、こうもりのようにすいついた黒い影が、くるりとこちらへ向きなおったが、おお、その顔、――それはたしかに、さっきのどくろ男ではないか。
「あっ!」
いっしゅん三人は気をのまれて、棒をのんだように立ちすくんだが、つまり、それだけのあいだ、こちらにすきができたわけだった。
タ、タ、タ、タ、――。
どくろ男は身をひるがえして、三人のほうへ突進してくると、やにわに太いステッキをふりあげて、はっしとばかりなぐったのは、金田一耕助の右うでである。
「あっ!」
ふいをつかれては、さすがの名探偵もたまらない。思わず懐中電燈をとりおとしたが、そのとたん、あかりが消えて、あたりはまっ暗。そのくらやみのなかを、さっと風をまいて、ぎるけはいがしかと思うと、やがて、
タ、タ、タ、タター、
と、かるい足音が、三人がいまきたほうへと遠ざかっていく。
「ちくしょう、ちくしょう。立花君、滋君、懐中電燈をさがしてくれたまえ」
懐中電燈はまもなく見つかった。さいわいこわれてもおらず、ふたたびあかりがついたが、そのときには、どくろ男のすがたも見えず、足音ももうきこえない。
「金田一さん、ど、どくろ男でしたね」
「ふむ」
「あとを追わなくてもいいのですか」
「あとを追ってもむだでしょう。あのふたまたの、どっちへにげたのかわかりませんからね。それより、さっきの悲鳴が気になります。いってみましょう」
三人は、そこでまた、その地下道をさきへすすんたでいったが、やがて百メートルも来たところで、急な階段にぶつかった。
「悲鳴はこの上からきこえてきたのですね」
「そうらしいですね」
「しかし、みょうですね」
「なにがですか、金田一さん」
「だって、あの悲鳴をきいてから、われわれはすぐに走りだしましたね。そして、五十メートルもいかぬうちに、どくろ男にであいましたね」
「ええ、そうです。それがどうかしましたか」
「立花君、いこう、いってみよう」
「よし、滋君もきたまえ」
三人はむちゅうになって地下道をはしていったが、それから、ものの五十メートルもいかぬうちに、金田一耕助がとつぜん、
「だれだ?」
と、さけんで立ちどまると、かたわらの地下道の壁に、さっと懐中電燈の光をさしむけた。
と、そのとたん、地下道の壁にピッタリと、こうもりのようにすいついた黒い影が、くるりとこちらへ向きなおったが、おお、その顔、――それはたしかに、さっきのどくろ男ではないか。
「あっ!」
いっしゅん三人は気をのまれて、棒をのんだように立ちすくんだが、つまり、それだけのあいだ、こちらにすきができたわけだった。
タ、タ、タ、タ、――。
どくろ男は身をひるがえして、三人のほうへ突進してくると、やにわに太いステッキをふりあげて、はっしとばかりなぐったのは、金田一耕助の右うでである。
「あっ!」
ふいをつかれては、さすがの名探偵もたまらない。思わず懐中電燈をとりおとしたが、そのとたん、あかりが消えて、あたりはまっ暗。そのくらやみのなかを、さっと風をまいて、ぎるけはいがしかと思うと、やがて、
タ、タ、タ、タター、
と、かるい足音が、三人がいまきたほうへと遠ざかっていく。
「ちくしょう、ちくしょう。立花君、滋君、懐中電燈をさがしてくれたまえ」
懐中電燈はまもなく見つかった。さいわいこわれてもおらず、ふたたびあかりがついたが、そのときには、どくろ男のすがたも見えず、足音ももうきこえない。
「金田一さん、ど、どくろ男でしたね」
「ふむ」
「あとを追わなくてもいいのですか」
「あとを追ってもむだでしょう。あのふたまたの、どっちへにげたのかわかりませんからね。それより、さっきの悲鳴が気になります。いってみましょう」
三人は、そこでまた、その地下道をさきへすすんたでいったが、やがて百メートルも来たところで、急な階段にぶつかった。
「悲鳴はこの上からきこえてきたのですね」
「そうらしいですね」
「しかし、みょうですね」
「なにがですか、金田一さん」
「だって、あの悲鳴をきいてから、われわれはすぐに走りだしましたね。そして、五十メートルもいかぬうちに、どくろ男にであいましたね」
「ええ、そうです。それがどうかしましたか」
Posted by 似水流年 at 15:39│Comments(0)