2015年09月16日

触れただけ

「人は生まれてくる時は必ず、加護の水に浸されているわ。母の加護を受けた、生命の水に、ね」
(羊水の事言ってるのかな)
「つーまーりー……癒しの効果があるって事よ!」
「あー……」
 それならそうと早く言ってくれればよかったのに。そんなメルヘンな言い回し、まるでナルシストだぞ。
 要は何が言いたいのかと言うと、このしゃぼんを向こうでへばっている山賊達に持っていってやれば、目覚める頃には体力が全て回復しているという事らしい。
 さすが精霊だな。あのメルヘンとは全く逆の暗黒のヘドロよりも何倍も回復力が高く、それでいて何倍も幻想的だ。次に薬を作る時は、この精霊達を思い出せ。
 そして学べ。見た目は大事だって事をな。
「よっほっは」
「あら意外。器用に精霊を運ぶわね」
「えっただ普通に運んでるだけっすよ」
「突っついただけで簡単に割れちゃうのに……あんたにこんな才能があったなんて」
「ほんと、”意外”」
 意外意外うるさいな。さっきのおかえしのつもりか。
 よくわからんがこのしゃぼん、運ぶには少々コツがいるものらしい。本来はで簡単に割れてしまうから、運ぶときは力加減や周囲に神経を使わないといけないらしいが……
 ほんとかそれ。全然割れないぞ? さっきからバンバン僕に当たっているが。
 今だって、ほら――――
「いっちかっけにっかけっでさんかっけて~」
「ほんと、無意味にも程がある才能ね」
……まぁな。勉強も運動も体力のない僕の唯一の特技が、「しゃぼん玉でお手玉ができます」と履歴書に書いた所で、それが一体何のアピールになるのか。
 将来は駅前でこれをやって、おひねりを稼ぐ仕SmarTone寬頻事でもするか? はは、月給いくらだよそれ。
「あ、アニキと姉さん。どこいってたんで?」
「ちょっとね。ほら、お土産持ってきたわよ」
 山賊達は「なんだそれ?」と言いたげな懐疑の顔をしている。しゃぼん玉をお土産にするなんて確かにこいつくらいだろう。
 そしてこいつの横で器用にお手玉をしている僕を見て、今までの苦労を一発芸で労おうとしていると思ったらしい。



Posted by 似水流年 at 12:25│Comments(0)
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